ビジネスマンの父より息子への30通の手紙, Letters from a businessman to his son.
著者:キングスレイ・ウォード, G. Kingsray Ward 訳者:城山三郎 出版:新潮文庫, 1987年, 11版
2度にわたり心臓に手術を受けたカナダの実業家が、自分の息子にあて遺書代わりに書いた手紙が、1987年に出版され世界でミリオンセラーになった本とのこと。酒井穣さんの推薦図書にあったので読んでみた。父親は染み渡る口調で語りかけ、何事も中庸を重んじた人柄が滲みてくる。「正確に情報を集め、しばらく頭の中で寝かせておく(寝る or カナダの森でカヌー漕ぐ)すると自然に解決策が見つかる」というのは私の実体験とも重なる。城山三郎氏の丁寧な目次が大変良くできている。全体像が見えてくるので、全部書き出してみることにした。もし見たらきっと買いたくなると思うんだけれども・・・。
0.実社会に出発する君へ「若いうちに数回失敗することは非常に有益である」 by トーマス・ヘンリー・ハックスレー「もっと大きくなれるのに、なんと小さな俗物であることよ」 by チャールズ・ダッドレー「成功を勝ちとるために努力が必要なのは言うまでもない。しかしさらに大切なのはその努力をどのようにして成功に結びつけるかである」 by 父
1.あえて挑戦を Challenge・名門大学に合格したが気おくれし、やっていけるだろうかと迷っている君へ。学問の水準が極めて高く規律が厳しくまたよい校風があることで知られる私立学校へ、息子は入学する機会を与えられた。息子は気おくれして、やっていけるだろうかと真剣に迷う。父親は助言しても、強引に息子を入学決定に追いこもうとはしない。
2.教育の設計 Education・いつ、何を、どう勉強すれば、充実するのか、将来に備えて。息子は十八歳、実社会での将来について考えている。いつかは事業経営にかかわりたい。問題は、「その方向に進むには、どのように準備すればいいのか? どんな教育が必要か?」である。
3.成功について On success・父親にはかなわない? いずれ父親を振り回すようになるのに。息子から見ると、父親は人生の成功者で、その足跡をたどることはとうてい無理である。息子の目に映る父親は、非常に頭が切れ、実に物知りで、自信に満ちている。そんな真似はできっこない。そんな大役を引き継ぐことはできない。ともかく、そんな気がする。
4.惰性的な生き方には Stopping the momentum・「ミソサザイの翼で鷲のように飛ぶ」ことはできない。下降する成績に歯止めを。息子は大学二年の中間試験で悪い成績をとった。一年目のB+からがた落ちである。父親はこの下降傾向が逆転することを願って手紙を書く。※ミソサザイ(鷦鷯、三十三才, 学名:Troglodytes troglodytes)は、スズメ目 ミソサザイ科 に分類される鳥類 の一種。体長10c m ほどで、日本で最小クラスの鳥である。学名 の内、属名、種名troglodytesは「岩の割れ目に住むもの」を意味する。
5.実社会での最初の日々 First days in the real world.・いよいよ実社会に足を踏み入れたが、一抹の不安を感じないではいられない君に。息子の待ちに待った、父親の事業に参加する日がようやく訪れた。しかし、いよいよ現実の実業界に足を踏み入るときには不安が伴う。父親は「新入社員」に励ましの言葉をおくる。
6.誠実さの代償 Integrity・ビジネスで最も重要なルールは君が真実を語らなかったと、決して人に言われないことだ。息子はこの六ヶ月間、ある重要な契約を担当している。会社の力量を裏付けるために、息子は会社の内情を将来の顧客と目される相手に漏らさなければならなかった。それは契約を最終的にまとめる段階で、契約を結ぶという暗黙の了解を明らかに得てからのことである。ところが契約は実現せず、息子は相手の商業道徳の欠如に腹を立てている。息子から見ると、相手が契約のための話し合いや交渉のなかで述べたことの多くは偽りで、故意に誤解を招かせるものであった。
7.「企業家」とは何か? What is Entrepreneur・冒険心と自信。危険への備えはどうするのか?息子と父親は一緒に商用で旅行をしたとき、企業家について、また企業家になるための条件について話し合う。その話し合いは中断されたので、父親は帰ってからペンで会話を続ける。
8.経験の重みに代えて Experience・新たに販売部長に就任した君。経験が基本条件の部署だが、しかし君にはそれがない。息子は社内で新しい地位に就こうとしている。この販売の分野に属する地位では、経験が基本条件のひとつだが、息子にはそれがない。父親は息子に自信を失わせることなく、この欠けている要素の重要性に注意を喚起する。
9.部下との衝突 Employees・衝突で何を得、何を失ったか。回避の道はなかったか。貴重な社員がひとり、息子と衝突して辞職する。父親はこの自体を憂慮し、とりあえず、それぞれの持ち場で必要とされている社員を失わないように努めることの大切さを強調する。
10.共同事業への誘惑 Partnership・一攫千金のうまい話にさめた目、さめた手段を。息子は一攫千金を夢見ながら、友人三人と始める共同経営事業に投資したくてむずむずしている。父親は、そのような投資をするまえに慎重に考慮すべきいくつかの点を説明して、この投機的な事業を異なる視点から見直すことを勧める。
11.結婚を気軽に考えないで Marriage・結婚という投資による損失は大きい。よき妻の条件とは。息子は結婚を考えている。同姓の友人のほとんどが結婚してしまったことが、理由の大部分とはいわないまでも、一部になってるらしい。父親はそれが「人真似主義」の現れでないかと考えて、この問題について、慎重に二、三の助言をする。
12.事業を拡大する上で重要なこと Business Expansion・事業を大幅に拡大するについて、二、三の大きな問題を見落としていないか?息子は事業を大幅に拡大したいと思うが、実業界の経験が浅いため、いくつかの重要な問題点を見落としている。父親はこれらに注意を促そうとする。
13.金銭感覚はどうなっているのか Money・高額の勘定書が会社に回されてくる。いささか不安を感じて一つ尋ねたい。かなりの額にのぼる息子の勘定書が会社に回されてくるので、父親は息子の金銭感覚に少し不安を感じて、この支出がみな会社の繁栄のために欠かせないのか、と尋ねる。
14.講演は自信を持って Public Speach・母校の講演を引き受けたものの、大勢の前で話す場面を想像し愕然としている君に。息子は母校の経営学の学生のために講演を依頼され、喜んで引き受けるが、大勢のまえで話す場面が目に浮かぶと愕然とする。父親はあがらないための秘訣をいくつか授ける。
15.礼儀正しさにまさる攻撃力はない Manners, Attire &, Deportment・仕事仲間に誇りを持って紹介できる社員とは、どんな人物なのか?息子は販売要員をひとり採用するために、数人の応募者の面談をし、会社の代表として誇りをもって送り出せる適格の若者を見出すことがいかに難しいかを思い知らされて、驚いている。
16.銀行融資をとりつけるには Bank Managers・実業家は銀行の有難味をよく忘れる。君も目標に夢中で、銀行を過小評価していないか?息子はある会社を買収するための資金を銀行から借りようとするが目的を果たさず、ひどくがっかりしている。息子は銀行との交渉で、なにか間違いを犯したのだろうか? 父親はそこを突きとめようとする。
17.政府の検査官について On dealing with government・恐れることはない。政府は私たちの事業を助けるためにあり、実際に助けてくれるはずだ。政府当局による工場検査のあと、息子は動揺している。検査官に反省する根拠は充分にあると思ったのだが、かえって事態を悪化させることを恐れて、それをさしひかえたのだった。父親は自分の経験から、この問題について、二、三の原則を語る。
18.多角経営は会社を安定させるか On the principle of diversification・会社は一つの分野だけの経営の方が強いのではないかと、多角化の根拠を尋ねる君へ。息子は多角経営の論理的根拠を尋ねる。会社は四つあるいは五つの分野に手を拡げるよりも、ひとつの分野にとどまったほうが強くなるのではないか? 多角化によって、人事問題、資金繰り、管理、その他の問題も四、五倍になるのではないか? 父親は回答を試みる。
19.読書の価値 The value of reading・「一冊の本しか読まない人に気をつけよう」これ以上付け加える必要があるだろうか?息子は読書を通じて経営の腕を磨こうとする。父親はいくつかの助言をする。
20.効率的な管理とは何か? Teamwork・それは部下とのチームワークである。が、活用されることの少ない方法のひとつでもある。責任を持たされている会社のひとつで、息子はある重大な問題を解決しなければならない。どのような行動方針をとるのが最善か? 息子は決しかねている。
21.人生の幸福とは On happiness・「人生の『真』の幸福はどのようにして手にいれるのか?」と問いかける君に。息子はいくつかの哲学的な質問をする。「人生の『真』の幸福はどのようにして手にいれるのか?」「ひとかどの人物になるための条件は何か?」「一緒にいればいつもうれしく、楽しい人がいる一方で、五分間そばにいても、一週間に感じられる人がいるのはなぜだろう?」ノンフィクションを読んで、現実の人間が成し遂げたこと、あるいは成し遂げようとしていることを知り、自分自身に言うことである「よし、ぼくもやるぞ!」「これは難しい、嫌な仕事だが、引き受けるつもりだし、引き受けるからには立派に成し遂げるつもりだ!」 と自分に言い聞かせること。by 父「責任は人間存在の基礎」by フランクル「人の運命を形成する鋳型は、主としてその人自身の手中にある」by フランシス・ベイコン「偉大な高みに導く道は険しい」by セネカ(紀元50年)「現実の自分が、もしかしたらなれたかもしれない自分に、悲しげに挨拶する」 by フリードリッヒ・ヘベル「人生の価値は時間の長さではなく、長生きをしても、空しい人もいる。人生に喜び(幸福)を見出すかどうかは、その身の上話ではなく、心の持ち方で決まる」 by モンテーニュ(400年前)22.社員を解雇するとき On firering people・気の重い神経の疲れる任務だが、それもまた、経営を向上させるうえでの大切な仕事だ。息子は会社の総務部長を解雇しなければならない。それは気の重い、神経の疲れる任務である。父親はこの問題について二、三の助言をする。
23.友情は手入れしよう Friendship・仕事で何人かの友人ができた。が、昔の友人に会う機会がないと悩む君に。物思いに沈みながら、息子は考える。この数年、仕事仲間のなかには、何人か親しい友人ができたが、昔の友だちにはめったに会う機会がない、と。息子はこの事態に不安を感じる。
「新しく人と知り合いにならなかった日は、その日を失った気がする」by サミュエル・ジョンソン「強い人に特徴的な習性は、自分に及ばない友人は持たないことである」by 孔子(紀元前500年)
24.批判は効果的に On Criticism・人はそれぞれ性格や性癖が違う。思慮深い批判を与える人は決してこの事実を忘れない。息子はある顧客の問題を正そうとするが、その試みを当の顧客から厳しく批判される。父親はこの事態をよくわかる形で示そうとする。
25.自分の財布の管理も計画的に Personal Financial Security・「予期せぬ請求書」のために、個人的な借金を申しこんできた君に、一言いう。息子は父親に会社から500ドルを一、二ヶ月間借りることを許して欲しいと言う。忘れていたのか、「予期しなかった請求書」がいくつか来たらしい。父親はそれをあまり喜ばない。
26.常に備えよ On being prepared・最近の経営不振から、会社は将来まで耐え抜けるだけの準備があるかと動揺している君へ。息子は最近の経営不振に動揺し、会社は今回の挫折に限らず、将来どんな逆境に立たされても、耐えぬけるだけの準備ができているのだろうか、と心配する。
27.ストレスと健康 Stress and your health君に最も適した、くつろいだ状態になるために・・・・・・父親は息子に「ストレスと健康」のセミナーを紹介するパンフレットをまわして、参加を勧めるが、息子はこのストレス論には懐疑的であり、参加したがらない。
28.優れた指導者の条件 On being a leader・業界団体の会長に推されたが、35歳ではその地位は務まらないと思っている君に。息子は業界の同業者団体の会長に推されたが、三十五歳という若さでは、その地位は務まりそうもないと思う。父親は指導力について、自分の考えをいくつか述べる。
29.生活のバランスを保とう That balance in life・社長に任命されて以来仕事に精進する君に。仕事と同等に大切なものもあるのでは・・・・・・息子は社長に任命された。ナンバー・ワンという念願の地位を手に入れたのである。それ以来、仕事に費やす時間が以前とは比較にならないほど多い。父親は新社長の精進ぶりを認めながらも、いくつかの考えを述べる。
30.あとは君に任せる "You are on your own"・君は後継者になった。もう君の仕事に口出しするつもりはない。私の人生を楽しむだけだ。父親は引退を表明した。息子は、せめて役員の一人として現役にとどまるよう、心から説得しようとするが、父親は聞き入れない。
コメント
コメントを投稿