グーグル秘録 完全なる破壊 ”Googled" by ケン・オーレッタ




個人から見たグーグルには、2つの側面があると思います。

①便利なサービスやソフトウェアを無料で使わせてくれて「ありがとう」という側面。
 検索エンジン、Chromeブラウザ、Google日本語入力、Google音声入力、G-Mail、このBloggerブログなど、全部無料で使えます。フリーミアム(有料のフル機能バージョン)でもあれば、大人ならお金も払うだろうに、彼らはあえてそれをやらず、今のところ無料です。

②私の「プライバシーは本当に守られるんだよね?」とちょっと不安な側面。
Web検索履歴は(消してないので)何年分も残ってるし、G-Mailでは本人が読む前に自動で構文解析してピタリの広告付けてきたり、ブログでも記事内容ごとにピタリの広告(Adsence)を付けてくる。無料の見返りだとわかってるけど「本当に信じてていいのかな?」ということで、ちょびっと心配でグーグルには関心があるわけで、この本を読んでみました。
上場したグーグルの行く末は、3人の主要株主の意志によって方向づけられるようです。3人の人格や志向性が気になります。本書は、あまり表に出てこない3人のGoogle経営者象/人柄/考え方や、各種メディアとの関係や、今後の方向性等について、しっかりした取材に基づいて書かれていると思います。まるでドキュメンタリーを見てるような感じで読みました。印象に残ったところを、抜き書きします。
【グーグルの経営者プロフィール】
サーゲイ・ブリン:祖父から代々科学者の血統。モスクワから脱出したユダヤ人で、スタンフォード大(しかも奨学生)で1年目で全ての単位を取ってしまうような「ある種の天才」。自己省察が苦手、反骨精神が強く、何事にも効率性を重視する。データマイニングが専攻で、検索クローラの基本的なアイデアは彼ではないか?と思われる。
ラリー・ベイジ:父親はミシガン大のコンピュータ・サイエンスと人工知能の教授。母親もコンピュータ・サイエンスの修士号をもっており、データベースコンサルタントの前は大学で教えていた。7歳になるまでに兄と共にパソコンに精通していた。一家揃って読書家。際立っておとなしい性格で、悪性のニキビにも悩まされ、ひとりでいることを好む、恥ずかしがり屋、非社会的な少年だったという。8歳で両親は離婚し父親はミシガン大の同僚と再婚した。
何かを発明するだけなく、それを世に送り出し使ってもらうことが何よりも重要と考え、いつかは会社を興すと考えていた。サックスの腕前でも高1で代表の腕前だった。彼もスタンフォード大。

2人の共通点:



「スタンフォード大学の大学院で、コンピュータ・サイエンスで博士号を取ろうとしてた(ブリンが2年先輩)」
「父親が大学教授」「母親も科学関係の仕事に就いていた」
「共に1973年生まれ(今37歳かな?)」
「何事にかけてもとことん議論を尽くすような家庭で育った」
エリック・シュミット:
1955年生まれ(今55歳!私より年上だw)。両親は文系の学者。プリンストン大学で建築学から電子工学に変更し、夏休みはベル研で働き、UCバークレーで修士号と博士号を修得している。非常に優秀でゼロックスのパロアルト研究所のコンピュータ・サイエンス研究所の研究員となり、ビル・ジョイ(あのサン・マイクロシステムズの創業者)やチャールズ・シモニー(マイクロソフトのワードやエクセルの作者)などが同僚だった。
2000年12月に創業社2名が何度も面接して決めた共同経営者で、前職のノベルCEOでは、破産寸前(連邦破産法第11条;チャプターイレブン)の経験を持つ。
【従来メディアとの関係とその脅威】
「君たちは魔法をぶち壊しにしているんだ!」 
by 2003年6月 当時59歳のメル・カーマジン(当時のバイアコム社長、傘下にCBSネットワーク、テレビ局、ラジオ局、映画のパラマウント、MTVと関連CATV局、出版社サイモン&シュスター、屋外広告会社等、世界第4位のメディア企業の代表がグーグル創業者2名とのミーティング中の言葉)
上場し、その経営実態が明らかとなり、注目を集め、メディア業界の「眠れるクマ」たちを起こしてしまった。
【この先、社会はどうなる?】
インターネットやデジタル技術により、消費者はDVDを買う代わりに、映画をダウンロードできるようになる。小売業者や旅行代理店だけでなく、金融ブローカ、不動産ブローカ、出版社、書店、代理店、音楽CD、新聞、ケーブルTVや電話回線、有料告知広告、パッケージソフトやゲーム、クルマのセールスマン、郵便局などが全て消滅する可能性がある。イーベイのように、ウェブは売り手と買い手を直接結びつけるので、テクノロジーは確実に、多くの従来型メディアを破壊するだろう。
またターゲティング広告の自動化が加速し、ベンダーと広告主が直結するため、広告代理店等の”中抜き”は止まらないだろう。制作会社も巨大な配信力を持つベンダーと直結してゆきTV等のマスメディアも危うくなるかもしれない。
【Googleの弱点】
・社会性や「群衆の叡智」に欠ける。フェースブックやツイッター(実際、買収に失敗している)のように「これ教えて!」的な「人間同士の繋がり」によるソーシャル検索ができない。関心がコンピュータの頭脳であるCPUに向きすぎており、人間の頭脳を無視している。by ジョン・ボースウィック
・バーティカル(垂直形)サーチ(専門家の知識を生かした検索システム)がない。by ダニー・サリバン
・究極のバーティカル・サーチはAI(人工知能)で実現するという考えもあるが、実現までの道のりははるかに遠い。・人間のように思考するコンピュータというゴールには、50年前と比べても少しも近づいてはいない。by クレイグ・シルバースタイン
・「内容の真偽を見分ける力」「読者の驚きに触れること」「思考の幅を広げること」が失われる。数学者やエンジニアが支配するグーグルは、トランスペアレント・パーソナリゼーション(ユーザが気づかないような個別対応)がもたらす社会的影響に気付いていない。リンクに導かれるままに機械的に情報を処理することで失うものに気付いていない。by ニコラス・カー、タラ・ブラバゾン
・グーグル・ブックスの電子書籍に関する司法省等の動き。
・世界共通の価値観は存在しない。インターネットが推進する、自由/解放や、ウェブが個人にもたらす自由は、必ずしも倫理的にまっとうな批判しようがないものではない。シンガポール、エジプト、イラン等の政府では、ネットは「個人ではなく、社会にとって有益なものであるべき」とライセンス制にしたり、中国政府も然りで「人間の尊厳」「言論の自由の行き過ぎ」を防ぐための国際基準を求める声もある。故に「世界の情報を共有し、利用可能にする」グーグルは、いつでも戦うべき政府がいることになる。
・「グーグルが最も恐れるべきは、自らの傲慢さ」若いときに成功して、すべてが思いどおりにいっていると、自分にはなんでもできると考えるようになる。by ヨッシ・ヴァルディ
・「技術さえ出来れば、おのずとうまくいくと考える二人は、”技術的楽観主義者”」by テリー・ウィノグラッド
「広告を売ることは、それは科学ではなく、感性の問題なんだ」by メル・カーマジン
・グーグルはすでに大企業だ。もはやイノベーションを起こすことはできないかもしれない。動画はYouTubeに打ち負かされ買収するしかなかったし、SNSでもフェースブックに打ち負かされた。集中すべき焦点が定まっていない。by フレッド・ウィルソン
・経営者が「酷い失敗」を経験していないし、そこから学んだことがない。by アル・ゴア
・最盛期70%シェアだったIBMやマイクロソフトでさえも凋落した。グーグルでも既に同じことが起き始めているかも知れない。いずれ成長が鈍化し、巨額の投資をしたYouTube,Android,クラウド,Chromeブラウザ(OS)のビジネスモデルもまだ構築出来ていない。 by クレイトン・クリステンセン
【一社でメディア業界全体を揺るがした企業】
グーグルが慢心すれば危ういことになる。もし「偏向している」「知識や顧客さを独占しようとしている」「プライバシーを侵害している」という社会的な疑惑が生まれでもしたら一気にグーグルの立場は弱くなる。一方でユーザの利益を最優先する姿勢を続けることで社会の信頼を保ち、謙虚さを失わず、キツネのような俊敏さで前進を続けていくとすれば、その進撃を止めるのは難しい。
いずれにしてもメディアの地平をこれほど急激に揺るがした企業はほかにない。

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