低血糖症と精神疾患治療の手引き by 柏崎良子

ここ1ヶ月ほど、ある個人的事情から、低血糖症について、いろいろ調べておりました。

あまり解明されていない領域みたいですが、この本を読んでみました。
著者自身が低血糖症を克服したお医者さんです。



糖尿病は血液中のブドウ糖の量が高いままでとどまる病気ですが、低血糖症はその反対です。
どちらも血糖調整の異常という意味では、同じ範疇に入ります。

【低血糖症のメカニズム】

低血糖症とは、血糖値が急降下したり、低いままでとどまったりする病気で、そのためにさまざまな
内分泌系や自律神経の混乱をきたし、精神的・身体的にさまざまな症状を引き起こします。多くの原因はインスリン分泌の過剰によりますが、そうでない場合(先天的な体質など)もあります。
症状がどの程度現れるかは、以下の要因によって左右されます。

①血糖値がどのくらい低いままでとどまるか、あるいは単位時間あたりの乱高下の程度。
②身体を調整する自律神経の機能低下の程度
③(ノル)アドレナリンを抑制するセロトニンなどの脳内ホルモンを生成する能力の程度
④(脳内)ホルモンを合成するための栄養(特にタンパク質)の摂取量
⑤ビタミンB、ミネラルの摂取程度
⑥貧血・糖尿病・甲状腺疾患などの血糖調整やホルモン分泌に関する合併症の有無
⑦血糖値を調整するインスリンの分泌と作用に対する先天的障害の有無
⑧日常生活や食生活の安定性

【カテコーラミンの分泌と作用】

①低血糖とカテコーラミン

低血糖時には低血糖による障害を是正しようと、6-7種類のホルモンが分泌される。その中で最初に分泌されるのが、カテコーラミンで、このホルモンが過剰に分泌されると、低血糖症の精神的・身体的症状を起こす。

・脳は体全体の血糖の20-30%を消費する。その脳が低血糖状態になると、脳を守るために、血糖の無駄な消費を抑えようとして眠気が襲ってくる。

・また、理性を司る大脳皮質での栄養が乏しくなるため、理性の働きが鈍ってくる。低血糖時には、まず生命維持に関わる間脳(視床下部など)にブドウ糖が優先して分配されるために、いっそう大脳皮質への血糖供給が減り、理性的判断が更に困難になる。

・他方、血糖値を上げるために分泌されたアドレナリンやノルアドレナリンが、激情を司る脳(大脳辺縁系)を刺激し、感情的興奮(怒り、憎しみ、敵意、焦燥感、恐怖感、落ち込み、悪夢、不眠、自殺観念 など)を引き起こす。脳全体の機能バランスが悪くなり、感情をコントロールできずに「キレる」症状を起こす原因の一つともなる。

・体質的にカテコーラミン分泌により体調をいっそう悪くする人がいる。自律神経の協調作用の弱い人、アドレナリンを抑制するセロトニンの分泌がうまく行えない人、アドレナリンセプターの感受性が抗進してる人、(潜在性)貧血がある人など

②カテコーラミンの分泌

・アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミンの3つのホルモンをあわせてカテコーラミンと呼ぶ。

・通常、カテコーラミンは、日の出の頃に分泌が始まり、午後3時頃に終わる。

③カテコーラミンが過剰に分泌される時

・カテコーラミンは血糖値が降下している時に分泌される。(下がりきった時でない)

・その分泌量は、血糖値降下カープの程度に応じて多くなる。急激に糖分を吸収したことに対応して過剰なインシュリンが出ると、過剰なカテコーラミンが分泌される。

・【大事なポイント】低血糖症の食事療法で勧めている間食は、摂取するタイミングが大切。低血糖症状(空腹感や身体のダルさ、震え)が起こってから食事をとってもアドレナリン分泌は防御できない。

④カテコーラミンの作用

末梢では、血液中に分泌されたアドレナリンは交感神経のリセプターに作用し交感神経の働きを刺激する。中枢では、自律神経刺激症状、情動の興奮を起こし、次のような影響を及ぼす。


【カテコーラミンによる症状とその対応】

①攻撃的行動
アドレナリンは別名攻撃ホルモンともいわれ、怒り、敵意、暴力といった攻撃的な感情を刺激する。また闘争心を起こすので、一つの目標に向かって突進しようとする感情をかきたてる。この際、周囲の状況を配慮せず、一点を凝視する表情となったり、目が据わったような表情となったりするが、本人はそのことに気がつかなかったりする。

②うつ的衝動
ノルアドレナリンは、恐怖感、自殺観念、強迫観念、不安感といった否定的な感情を刺激する。通常、こうした情動刺激の信号が出た場合、人間の脳は大脳皮質にも影響を与えてその調整をし、前頭野で最終的な判断をして行動する。ところが、低血糖時などでノルアドレナリンが急激に分泌されると、前頭葉が麻痺し、理性的判断が困難となり、大脳からの抑制が効かない精神神経的症状を呈する状態となる。これがいわゆる「キレる」症状と考えられる。
パニック症状はノルアドレナリンの分泌過剰により発症するが、低血糖症でもノルアドレナリンが過剰に分泌されると似たような症状を起こす。
もし、キレそうになったら、あわてないで「この自分の状態は、もしかすると低血糖のためかもしれない」と判断して、深呼吸をしてから糖分の少ない炭水化物などを食べる工夫をして、血糖値が正常になり症状が回復するのを待ちましょう。(理性を失っているのに?周りがサポートせよと?)
体力が消耗し、ストレスが多そうなことが予想される場合には、前もってプロテインを摂取しておくと、パニックにまで陥らずに対応できるだろう。

③性格の異常化
低血糖の治療してゆく中で、自分は怒りっぽい性格だ、落ち込みやすい性格だと認めていた人が、やがては温和な明るい性格がでてきて、別人のようになることがある。アドレナリンやノルアドレナリンによって刺激された感情を、あたかも自分の特徴的な性格だと自認していたが、治療が進み体調が改善されると、本来持っていた明るく柔和な性格の良さが現れてくるわけだ。
一度怒ると、カテコーラミンの影響で止まらなくなることに、常に注意して思い出すようにすること。一度怒っても良いというスイッチを入れてしまうと、途中で切ることが出来なくなるので、決してスイッチを入れてはいけない。スイッチを入れると、人が変わり、性格が異常になるのはホルモンの影響なのだ。
誰かを怒りたいと思っても、静かにしていると、自分にも欠点はあることだし、別に怒ることでもないという理性的考えが生まれ、その人を赦すことができ、その結果自分もほっとし、そして自分自身で怒らなくなったと認めることができる。
自分の感情を抑え、冷静に考えてから行動するという経験を繰り返すことで自信も生まれる。

④感情の抑制ができない
家族に対して暴力を振るったり、寄生を上げたりする。(ノル)アドレナリンが分泌され、感情の刺激を受けた段階で、自分の対応を検討することをせず、行動を起こしてしまう。脳におけるこのような急激な反応は、おそらく、脳において神経伝達物質の伝導が異常に早く行われるからでないか?

このタイプは無反応性低血糖症の人に多く、家族の遺伝的体質の疑いがある。おそらく、神経伝達物質が作用するリセプターの伝達異常がある。

家族に暴力を振るった後で、土下座して詫びたなど、自責の念を持つこともある。こうした行為が、理性的な判断ができずに起こした、とっさの行為であったと認めることは症状の改善に大事である。

⑤判断の統合ができない
低血糖時には、前頭葉をはじめ大脳皮質の機能が低下するため、考え方に統合性が欠けることが多い。感情的なことや単純作業はできても、理性的判断に基いた行動を取りにくくなる。感情が興奮して調和の取れた判断ができず、脳の機能としては、全体として非常にバランスの悪い状態となる。
実際、低血糖で疲れている時には、休息が必要なのに、正しく判断できなくなっていることに気付かずに、体を使って働き続けてしまうケースも少なくない。体力を正しく判断するのが前頭葉なのだ。

⑥引きこもり
突き進んでしまうとは逆に、引きこもってしまうことがある。脳と身体のアンバランスを感じて、他の人との交流をする意欲や自信を失ってゆくのかも知れない。そういう時には「頑張らなくては」という気持ちが却ってプレッシャーとなるので、サプリメントを多めに摂って静養し、ゆっくりと体調の改善と体力の回復を図ることが大切。回復すると自然に動きたくなってくる。

⑦自律神経失調症
無反応性低血糖症では絶えず脳がアドレナリンによる刺激を受けている。自分自身の意思決定を下す前に次の刺激が始まる状況となって脳が混乱し、神経伝達物質の過剰分泌とそれによる枯渇が起こり、うつ症状につながると思われる。

⑧完璧主義になる
アドレナリンはひとつの物事をどこまでも完全に成し遂げようとする感情を駆り立てる。実際は体力の低下があるのに、血糖値が下がってアドレナリンが分泌され、仕事をやり続けてしまう感情に駆り立てられることがある。ある患者で朝食を取らず昼食にはジュース1本だけで朝から午後3時頃まで仕事をやり続ける主婦がいた。「時々体が絞られる感じがする」というので調べると負荷後1時間の血糖値は195で4時間で42まで下がっていた。私は「血糖値が急降下したため、ノルアドレナリンが分泌され、筋肉の血流が低下し筋肉の緊張を起こし」ていたと説明した。その後、食後3時間に軽食を摂り始め体調が改善した。

アドレナリン分泌により「自分は平気だ」と感じていても、体力的には非常に消耗している。自分の体力に対し適切な認識ができず、休まないでどんどん仕事を続けて行い、あとで寝込んでしまうほど疲れてしまう人もいる。自分が疲れを感じている時には、もう既に身体は体力調整のために動き始めていることを知りましょう。

⑨健康の認識基準が低い
低血糖症の人は、自分の健康に対して関心と評価が低く、少しでも良くなると、健康の回復よりも仕事に関心がいってしまいがち。良くなっても、さらに休むことを仕事のように意識し、時間と体力の調整を図ってさらに体調の改善を図ることをまず行いましょう。仕事や今やり続けている事柄が滞っていることがわからないような時には注意してください。もしかしたらアドレナリンにより脳が興奮をうけている状態かも知れません。思い切って休みましょう。身体に対して正しい判断を持つこと、対処することが大切です。

⑩自責の念が強い
低血糖症の人は、失敗への対応や人間関係の維持が下手なので、失敗に対する絶望感が強く、自責の念が強いようだ。運動や日光浴でセロトニンの分泌を促し、囚われやすい感情を解放するように心がけ、周囲の人も労ってあげるようにせよ。

⑪過度に目的志向型になる
アドレナリンが分泌されると、成し遂げようとする意欲が駆り立てられる反面、自分の感情に目を留める余裕が乏しくなる。ものごとの良さを味わうこと、楽しいこと、美しいこと、他人と調和を保つことなど感情的に豊かな面に目を止めることが難しくなりがちなので、意識して情感を育むように。

⑫幻聴幻覚の症状
アドレナリンやノルアドレナリンが酸化されると、アドレノクロム、ノルアドレノクロムなどの幻覚物質となり幻聴幻覚を起こす原因となることがある。ナイアシンはそれらの酸化を軽減し、患者の幻聴幻覚が軽くなることがある。このため1日3~4gのナイアシン摂取を試みてみる。血糖値が急落する1時間前に軽食を摂り、アドレナリンの分泌を抑えてゆくことも大切。

⑬不眠と悪夢
アドレナリンやノルアドレナリンが日中多く分泌されると、寝付きが悪く、頭が冴えて不眠に陥ることがある。特に午後3-4時以降に分泌されないように注意する必要がある。これらのホルモンは血糖値の急落だけでなく、タバコ、コーヒーなどのカフェイン類によっても分泌が促される。また、このホルモンが多く分泌されると、夢を見ることが多くなり、特に怖い夢をよく見るようになる。ビタミンB6マグネシウムはこうしたホルモンを抑制するセロトニンの生成を助ける。イノシトールも睡眠に良い。レシチン(副交感神経の神経伝達物質アセチルコリンの前駆物質)も入眠の助けになる。

⑭キレて止まらない症状
アドレナリンは一度分泌されると分泌が止まらない傾向がある。自分の言動によっても分泌が増加する。例えば「怒り出すと止まらない」「キレて」物を壊す行動が始まると止まらない。などが起こることがある。自分の行動が刺激となり興奮が止まらなくなったりする。その状態に気がついたら大切なことは、動かないでいることものにしがみついてでも、じっとしていること。それはあなた自身でなく、ホルモンがさせていること。

⑮ストレスへの対応
低血糖症の人は、ストレスを受けやすく、ストレスが疲労の原因だと意識しているようだが、実はそうではなく、ストレスに対処する体力が無かったといえる。ストレスを感じたとき既に身体の反応は始まっている。副腎からアドレナリンやコルチゾールが分泌され脳も身体も緊張するが、この時にとっさに行動しないように気をつけよう

⑯感情表現の欠如
栄養治療をしてしばらくすると、家族から、今まで表情の乏しかった患者が笑うようになり明るくなったということを聞くことがある。脳の機能が回復される過程でいろいろな困難と思われる感情がまとまってきて、家族に話をするようになったり、感情が表現できたりする。

【カテコーラミンの作用を和らげるために】


①セロトニンの分泌を増やす
アドレナリンやノルアドレナリンは脳内ではセロトニンにより抑制されるセロトニンはアミノ酸であるトリプトファンからビタミンB6とマグネシウムの作用で作られ、日光浴(特に朝日を浴びると良い)によっても分泌が促進される


②レシチンの摂取
アドレナリンによって興奮した交感神経を抑制するのが副交感神経の役割。副交感神経の神経伝達物質はレシチンから作られるアセチルコリン。副交感神経は深呼吸や物を食べたりしても刺激され、長期的には運動により強くなる


③じっとしている
上記の症状の現れ方は、その人の栄養状態、ストレス度、貧血の有無、セロトニンなど脳内神経伝達物質の分泌、運動の励行、基本的な性格、自律神経の訓練度などのよって影響される。まずは考える猶予を自分に与え、的確な対処をする習慣を身につけること。

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